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小さな弱い人を守る

高知新聞人権啓発シリーズ<小さな弱い人を守る>
                               <2010.10.23付け朝刊掲載>
                         大 崎 博 澄
“たんぽぽ”咲いた
 明るい窓。人生を支えてくれた本。やさしい植物達。静かな音楽。訪ねてくださる方々とお茶を飲んで語らう、どっしりしたテーブル。
 ぼくが長年描いていたささやかな夢は、こんな研究室を持つこと。そこで、心に哀しみを抱えた人のお話をお聴きし、遠慮がちに励ますこと。
晩年に、家族全体が運命の嵐に翻弄されることになり、夢の実現はとても無理だと思っていた。四国管財様の社をあげてのご支援で、南はりまや町二丁目、緑濃い公園の隣に、恥ずかしいほど立派な看板を出していただいた。たんぽぽ教育研究所。
心に期するもの
県庁生活の最後に、ぼくは幸運にも教育という一番やりたかった仕事を任された。
劣等感にまみれて育った自分の幼少年期、深い心の傷に悩む我が子の姿、心に期するものを持ってぼくはこの仕事に飛び込んだ。たとえ孤立しても、自分の哲学を貫く。自分が最前線に立って、小さな弱い人を守る。でなければ、ぼくがこの仕事をする意味は無い。
教育問題の背景には、経済成長一辺倒の過酷な競争社会、経済的格差の拡大、その結果としての、地域社会の心のつながりの崩壊がある。八年間、悪戦苦闘した。手を尽くしても、教育の枠組みの中で解決できる問題はわずか。しかし、教育に展望を開くのは、小さな弱い人を守る、この教育哲学のほかに無いことも確信した。
 たんぽぽ教育研究所では、不登校などの教育相談、ひきこもりや、障がいのある方々の居場所づくり、教育のあり方や教育政策の共同研究などに取組んでいる。
 この歳になってこんな忙しい目に遭うとは思わなかったが、嬉しいことは、新たな問題に遭遇して新たなものの見方や考え方を学ぶこと。自分にまだ、自己変革を遂げよう、人間として成長しようという強い意思があることを実感すること。
障がい児の学ぶ権利
今年の春は、障がい児の学ぶ権利について、目を覚まされる出来事があった。
ダウン症の中学生が、小中学校を通じて親友だった級友の進学する地元の公立高校に入りたい、という切実な希望を持って相談に来られた。誠にまっとうな希望。
憲法はすべての子ども達に学ぶ権利を保障している。なんとかこの夢を叶えられないか。自分なりの手は尽くした。しかし、少年の希望は、空き定員のある定時制も含め、現行の高校教育制度という厚い壁に阻まれた。
高校進学率が90%を超える現在、公立高校は実質的に義務教育に等しい。障がい児の学ぶ権利を、時代遅れの制度を理由に排除することが許されるだろうか。現職の時、この事態を予測して備え得なかった自分の不明を心から恥じる。
 このケースは、障がい児の学ぶ権利の問題にとどまらない。
学習意欲の乏しさ、学業不振や不登校、暴力行為や非行など、現在の高等学校教育が共通して抱える問題を解決する道は、学力対策や生徒指導の強化といった対症療法の彼方には無い。
障がい児の学ぶ権利をどうやって保障するか、こうした教育の本質に根ざす問題に、高校教育が正面から向き合うことこそが、全ての教育課題の根本的解決に通ずる道なのだ。
人権感覚というもの
多くの高校現場を歩いた私の仮説だが、問題解決の一つのカギは、高校における学級経営の意識の弱さにある。人権感覚というものが、もっともっと認識されなければならない。
生活環境の厳しいAくん、学習が遅れがちなBくん、体や心にハンディキャップのあるCくんを教職員がいつも心に懸けている。こういう人権感覚を持って日常の教育活動が行われていれば、学級全体に必ずそれは伝わる。生徒の誰もが、Aくん、Bくん、Cくんを心に懸けるようになる。温かい仲間がいる学級ができる時初めて、様々な教育課題が自然に、しかも根本的に解決する。
人権感覚は、どうしたら磨かれるだろうか。問題解決の道を、法律や制度、管理や規制の視点からでなく、いつも、一人ひとりの子どもの幸せという、教育の本質から考えることに尽きる。
老兵は死なず 
余命いくばくも無い老兵に貴重な自己反省の機会を与えてくれた少年は、ある私立高校に進学した。熱心な先生方の支援で元気に通学している。しかし、問題は終わっていない。彼の提起した問いに、私達が誠実に向き合わなければ、この国の教育に未来は無い。
ぼくはこれからも、たんぽぽ教育研究所を拠り所に、小さな弱い人を守る活動を続ける。その活動を通じて、子ども達を支える市民のネットワークを広げる。温かい心のつながりのある地域社会の再構築、それが少年に託された、ぼくの最終テーマである。
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