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ライク ジス オールドマン

ライク ジス オールドマン
                              大 崎 博 澄


 ぼくはマンガも新聞を読むのも本を読むのも好き。散歩も山登りも釣りも探鳥も好き。テレビも昼寝も好き。どれも子どもの時から好きだったこと。そして、どの一つも未だに実現できない。ぼくの人生は、ささやかな、できそうでできないことがあまりに多いね。
 テレビを週に一回、日曜日の5時半からの「笑点」を一杯やりながら見るのが唯一の楽しみだが、それも、夕食の用意、明日の二人分のお弁当準備、朝食の用意、洗濯ものの始末などなどで、ちらちらとしか見られないことの方が多い。
お金が無い、という生活も厳しいが、自分の時間が無い、寝たい時に寝て、食べたい時に食べることができないという暮らしは、慣れたとは言え、なかなかしんどいものだよ。
 ところで先日、NHKの「歴史ヒストリア」という番組が、ぼくのあこがれの「札幌農学校」を取り上げていたので、台所の片付けをしながらほんの少し、ちらちらと見た。ぼくは運がいいね。ほんの少し、ちらちらでも、その時この言葉に出会えたんだ。
 かの有名なクラーク博士は、「ボーイズ ビー アンビシャス」(英語で書きたいが「アンビシャス」の綴りが書けない)に続けてこう言った。「ライク ジス オールドマン」当時の学生が書き遺しているので間違いないそうだ。
 いい言葉だなー、今のぼくの生き方にぴったりだなー、と思った。
お金も、自分の時間も、何にも無いぼくの生活だけれど、前途にあるのは絶望だけの生活だけれど、ぼくもただのオールドマンではないよ。
 朝6時に起きる。髭を剃って顔を洗う。ぼくは先日まで、昔々引き出物で頂いた20年ものの電気カミソリを使っていた。刃を何度も替えた。替えればまだ使えるとも思ったが、あまりの剃り味の悪さ、辛抱のよいぼくもさすがに飽きた。思い切って駅前の電気屋に出かけ、赤い値引き札のついた新しいカミソリを買った。3980円。快調に剃れる。
 ぼくと娘の二つのお弁当を作る。鮭とサバを一切れずつ焼く。鮭は娘、サバはぼく。昨夜用意しておいた野菜を醤油にカツオブシをからめて炒める。野菜の量をできるだけ多くする、塩分を控える、これがぼくの料理の唯一の思想。シシトウ、ピーマン、筋なし豆、たまに高価な絹さややチンゲン菜。ぼくはこの作業で、ほぼ全ての野菜が、醤油とカツオブシをからめてサラダ油で炒めるだけで美味しく食べられることを発見した。これはノーベル賞に値しないかね。娘には生ハムか焼き豚か、もう一品添える。二つの魔法瓶にお茶を淹れる。二つの弁当を包み、それぞれの袋に入れる。
 髭を剃り、顔を洗い、弁当を作った頃、娘が起きてくれば朝食を用意して一緒に食べる。起きて来なければ、手紙を書き置きして、朝飯抜きで出勤する。朝抜きは、昨日の暴飲暴食で疲れた内臓を休める、というコニヤンの理論に共鳴したのと面倒がないこと。
 アルバイトや出稼ぎが無い限り、たんぽぽに出勤する。社員さんの出勤は早い。8時前にはもう社屋周辺や公園のお掃除を済ませておられる。やさしい社員さん達にご挨拶する。たんぽぽのドアを開ける時、ぼくが一番幸せな時。ブラインドを上げてさんさんと朝の光を入れる。青い空や隣の公園の樹木の紅葉を確かめる。ラジカセで音楽を流す。パソコンを起動する。メールを開く。山のような迷惑メールの中に、あこがれの人からのメールが見つかるとオールドマンでも心がときめくよ。今日のお客様の予定をメモする。
 電話を取る。迷った末にやっとのことでたんぽぽに電話して来られる人の一本の電話を取ることに、ぼくはいのちを懸けている。そんな電話が増えた。昨年、詩集を送り出してからたんぽぽの知名度があがったみたい。
 ぼくはこの数カ月前から、詐欺師でなく、どうやら本物のカウンセラーになったなー、と感じるようになった。適切な援助ができる、という意味ではない。そういうことは何もできない。ただ、クライアント様のお話をどこまでも静かにお聴きすることができるようになった。それだけのことだが、それが嬉しい。遠慮がちに励ましてお見送りする時、ああ、励ましていただいたのは自分だなー、と感じる。それが嬉しい。ただ、感謝。
 講演の台本を作る。ぼくは台本無しでお話することができない。何度も何度も書き直す。90分のお話にその10倍の時間をかける。その時間のやりくりが大変。時間切れで出かける時もある。完璧に仕上げたと思ってもダメな時もある。ぼくの講演の打率は、ひいき目に見て2割5分。それでも、たまに反応がある。遥かな遠い人からお便りをいただくこともある。何より、自分のお話の内容が前より進歩したと思える時が嬉しい。
 たくさんの雑用がある。帳簿もつける。荷造りもする。電話を受ける。植物に水遣りもする。雑用は慣れているのでまったく苦にならない。人の五倍はらくらくと働いて来た、という自負がある。働く事は何であれ楽しい。
そうそう、来年の3月で親子4人の命の綱の大学の仕事が終わります。何でもします。誰か、オールドマンを雇ってください。ウィークデーの昼間はたんぽぽをオープンします。そのため、毎週一日、あるいは深夜、賃金はいくらでもOKです。能力、気力は十分、体力もそこそこあります。
 5時にたんぽぽの看板を裏返す。社員さんに、お先への挨拶をして外に出る。さあ、これからが戦争。買物をして、すっ飛んで帰って娘とのお話や炊事や洗濯や、てんやわんや。
 12時に寝て6時起きなので、最近慢性寝不足。しかし、なぜか元気。先日ひさしぶりに会った人に、お若いですねー、昔とちっとも変っていません。最上級でほめられた。昔から髪の毛が無かった。だからあまり変わらないのかも知れないが、ここは素直に喜ぼう。
 オールドマンにはまだ夢がある。今週こそ、ワインを片手に笑点を見る。12月15日のライブを成功させる。十四郎のために庭のある家に引っ越す。ベストセラーを出版する。1億円入りの財布を拾う。今年こそスノードロップを咲かせる。たんぽぽの活動を少しでも長く続ける。我が子も、人様のお子も必ず救う。我が家の絶望的な情況を必ず乗り越える。世直しに挑む。物忘れはひどくなったが、頭脳はまだ進化している。できるだろう。
 キミも、寂しくなったらオールドマンを思い出したまえ。ぼくはキミの友達だ。
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