05
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

光と影

光と影

                                                 アリス・キャロル

 桐皇は誠凛が秀徳戦で見せた『ゼロゲーム』に対する備えを何もしていなかった。呑気だとか舐めてかかっているというのではない。『ゼロゲーム』そのものを認識できなかったためだ。
 桐皇にはかつて桃井という情報のスペシャリストがいたが今はいない。誠凛に転校してしまった。誠凛バスケ部のマネージャーにはなっていないようだが、桐皇が情報戦において不利になったことは確かだ。桐皇バスケ部の面々にとって、桃井は情報のスペシャリストである以上に、青峰の幼馴染であり、扱いの難しい彼の面倒をみてくれる存在だという見方が強かった。だから桃井が辞めることによって、ここまで戦力が下がるとは正直予想していなかった。
 「難儀なもんやな」
 WC予選秀徳対誠凛戦の映像を見ながら今吉はつぶやいた。試合前に身体を休めようと設けられた休日、寮の部屋には彼一人である。映像そのものは撮ってくることができた。しかしその映像から誠凛というチームの正確な輪郭を描き出すことがどうしてもできない。
 桃井が入部したのは今年であり、彼女がいなかった頃も問題なく試合を行っていたはずなのだが、一度桃井の正確極まりない情報収集能力を目の当たりにするとすでに桃井のいなかったときが想像できなくなっている。桃井がいたのはI・H予選までのほんの短い期間だったにも関わらずだ。今吉は桃井が『キセキの世代』のマネージャーだったということを思い出し、改めてその力に感服した。
 『幻の6人目』だった黒子は正確には『キセキの世代』に含まれないし、マネージャーだった桃井もそうだ。しかし黒子も桃井も彼らに認められた存在であり、やはりその力は凡人には太刀打ちできないものなのだと弱気なことを考えてしまう。
 今吉は『キセキの世代』より2学年上だ。それでもほぼ同世代といっていいだろうし、『キセキの世代』の力はよく知っているつもりだった。実際青峰をスカウトに行ったときも、今吉は彼らの試合のDVDを見ている。しかしそれは結局のところ『つもり』であり、本当に理解していたわけではないのだとこうなって初めて分かる。
 ただ同じチームにいるだけの状態なら非常識なほど強い選手で済んでいただろう。しかし桃井のようにいなくなって初めて、口でどれだけ文句を言っていても、面白くないと思っていても(桃井に対してはそんなことは思わなかったが)自分たちが彼らの力に縋っていると分かるのだ。
 相手の過去から未来まで予測する桃井の能力がどれだけ桐皇の助けになっていたか。青峰は桐皇を辞めたわけではないが、もし青峰がいなかったらと思うと、誠凛には太刀打ちできないだろうとはっきりと分かる。
 キセキに認められた存在。キセキと同格の存在。『キセキの世代』抜きで彼らの相手ができるのか?答えはNOだ。つくづく、『キセキの世代』は化物だ。
 そのとき部屋の扉が開いて諏佐が入ってきた。
 「走りに行ったんやなかったんか?」
 諏佐は今吉と同室だが、じっとしていると落ち着かないとロードワークに行ったはずである。諏佐は今吉を見て居心地悪そうに首を振った。
 「走ってても落ち着かなくてな」
 「さよか」
 それ以上追究しない今吉に感謝しつつ、諏佐は部屋に備えつけの小型冷蔵庫からドリンクを取り出す。
 「秀徳と誠凛の試合のDVD見てたのか。」
 「そうや」
 後に続いた沈黙のうちに考えたことは二人とも同じだろう。見ても大して得るものはない。いや、去年も同じだったはずなのに。桃井がいれば。
 「これ見てなんか思ったことないか?」
 沈黙を打ち消すように今吉が言う。
 「思ったことか?」
 今吉がこんな言い方をするときは大抵何か考えがあるときだ。
 「何か分かったのか?」
 しかし諏佐の期待を込めた問いはあっさりと否定された。
 「なんも」
 「そうか」
 今吉を責めるつもりはないが、どうしても覇気のない返事になってしまう。
 「なんかおかしいような気はするんやけどなあ」
 「秀徳対誠凛戦での誠凛の作戦そのものについてはミーティングで話しただろ?」
 黒子を囮にする作戦。
 「ああ、伊月くんは要注意やな。」
 黒子にばかり注意が向いたから裏をかかれたのだ。あの試合キーマンは伊月だった。それは分かるのだが・・
 「まだなんかあるような気がするんやけどなあ」
 「何かって?」
 諏佐は首を傾げる。
 「分からん。分からんのやけど」
 今吉はリモコンを押し少し巻き戻す。
 「ほらここ」
 第2Q終了間際に放った緑間のシュートが、時間ぎりぎりでノーゴールになったときのものだ。不運だな、と思ったのだが。
 「嫌なタイミングやと思わん?」
 諏佐は思索を巡らす。
 「偶然だろ?」
 わざと時間計算してノーゴールにするなんてできるわけない。
 このとき諏佐の頭からは以前原澤に聞かされた『ゼロゲーム』のことは抜けていた。諏佐にとってあれは原澤の思い出話であり、とりとめもない雑談であり、特段注意するようなものではなかったからだ。桐皇だけでなく、秀徳も当事者でありながら、『ゼロゲーム』については認識できていなかった。あれは一度で見破れるようなものではない。見破れるとすれば、かつてそれを見たものたち――例えば、原澤であり、中谷であり、武内であり、荒木であり、景虎であっただろう。しかし彼らのうちの誰もあの試合で何があったか言うことはなかった。あの試合で負けた秀徳の監督である中谷も、これから誠凛と試合をする桐皇の監督である原澤も。誠凛が勝ち進めば当たることになるだろうが、おそらく荒木も武内も自校の部員にそれを告げることはないだろう。
 あれは彼らの心の聖域に座するものであり、他者に踏み込まれることなど許せないものなのだから。誠凛にはその聖域が自ら教えた。それに誠凛にはその聖域を継ぐ者がいる。それ以外の人間に、もっとも輝いていた自分たちだけの宝物を渡す気はない。
 黒子カズヤが代表から外されたのは首脳陣との対立が原因だ。試合をリードする彼と彼の指示に従順に従う自分たちの姿が首脳陣には黒子カズヤがチームを支配していると映っていた。それは半分正解で半分間違いだ。確かに黒子カズヤは支配者だったかもしれない。でも彼に支配者たることを押しつけたのは自分たちだ。自分たちは黒子カズヤに支配されることを望んでいた。
黒子カズヤは優秀で、有能で、完璧なPGだった。それだけなら赤司と同じだが、彼はその性格が赤司と違っていた。彼は他者に求められればいくらでも応える人間だ。甘えようとすればいくらでも甘やかしてくれる。赤司は部員を導きはしても、甘やかしはしない。そこが黒子カズヤと赤司征十郎の違いだ。
 甘やかす方が悪いと言う者もいるかもしれないが、彼が拒絶しないのをいいことにどんどん要求を増し、ついには思考さえ彼任せになってしまった自分たちが悪いのだと――元々は言われれば断れない彼に求めてしまったことが原因だったと気づいたのは黒子カズヤが代表からおろされて数年した頃だ。甘やかしたのは確かに黒子カズヤだ。しかし彼がそういう性格だと知った上で、甘えたのは自分たちだ。求めすぎた。それがゆえに黒子カズヤのバスケ人生を潰してしまった。罪悪感からボールに触れない日が続いた。やっとボールに触れ、指導者として歩み出すことができるようになり、整理できたと思っていた。しかし黒子カズヤの息子を目にしたとき、整理できたのではなく、ただ見ないふりをしていただけだと気づいたのである。過去は未だ彼らの内にあった。一度それを自覚してしまえば、もう見ないふりなどできなかった。
 だから中谷は誠凛の作戦に気づいても部員たちに何も言えず、原澤もまた何も言わない。WC本選で桐皇は誠凛と当たる。誠凛が『ゼロゲーム』を使ってくる可能性は充分にあるのに。選手だった時代を終わらせることができていないのだ。だからこそコートにいる彼の息子を対戦校の選手としてではなくチームメイトとしてとらえてしまう。チームメイトがどんなプレイをするかライバル校の人間に話す者はいない。つまりはそういうことだ。中谷にとっても、原澤にとっても、今自分たちが任されているチームより黒子カズヤの方が大事なのだ。自分たちが選手生命を断ってしまった彼の息子がコートにいるなら敵にまわることなどどうしてできようか。
 そんな自分たちに監督をする資格などないと分かっている。現に中谷は今年で辞めるつもりだ。まだ秀徳が引き留めている段階だが決意は変わらないだろう。後任が見つかり、引き継ぎが終わり次第中谷仁亮は秀徳バスケ部監督ではなくなる。そして誠凛との試合に勝つにしろ負けるにしろ、今年のWCが終われば原澤も同じようにするつもりだ。現在より未来より過去を取った。その選択がいかに愚かなものであるか知っている。それでも後悔はしない。示し合わせたわけではないにせよ皆待っているのではないだろうか。白金永治がすべての幕引きをするときを。新しい世代の誕生を。失った過去の再生を。
 己の部の監督がそんなことを考えていると知らぬまま、今吉も諏佐も試合当日を迎えるのだった。

 ジャンプボールに備えながら、諏佐は己の心がボールの行く末などどうでもいいと思っていることを感じとり、苦笑した。意味はないのだと思う。このジャンプボールで桐皇と誠凛、どちらがボールを取ろうが、試合を決めるのは青峰と火神、黒子なのだろう。
 『化物には化物しか勝てん。』
 試合前の今吉との会話を言葉を思い出す。
 『誠凛は青峰に火神か黒子を当ててくるやろ。』
 わしでもそうするわ。
 『他の手はないのか?』
 警戒はしておいた方がいいのではないだろうか。
 『言うたやろ』
 今吉が笑う。
 『天才は天才にしか倒せん。他では止めることはできんよ。』
 コートに目をやる。黒子と火神。今の段階ではどちらを青峰に当ててくるのか分からない。でもどちらにせよ、その攻防に自分は入れないのだろう。
 ふと伊月と目が合った。伊月は要注意だ。ミーティングの内容を思い出す。しかし諏佐は知らない。
 メトロノームはすでに時を刻み始めていると。

 ふう
 試合もまだ始まってないのに汗をかいている。
 伊月は『ゼロ・ゲーム』の枠を広げようとしていた。日向を見ると、それに気づいた日向がこくんと頷く。
 秀徳戦ではジャンプボールで競り合ったボールを伊月が取り、それを日向に回し、シュートを失敗させた。試合序盤で伊月に注意を向けさせないために。他の使い方もあるんじゃないかと思いついたのは試合の後だ。すなわち、日向に打たせて注意をシューターに引きつけること。
 日向の調子如何だがな。
 『君は誠凛の生命線だ。』
 カズヤが日向に言ったことだ。外が生きれば中が生きてくる。逆に外が入らなければ中の警戒が厚くなる。それはゲームメイクの基本だ。でも外の使い方はそれだけじゃない。司令塔(PG)から注意を外させること。SGにはそれができる。
 誠凛は意外性のチームだ。Cの木吉はPGのセンスを持ち、それは誠凛の大きな力になっている。日向にPGのパスセンスはない。日向は根っからのシューターだ。その代り日向は相手チームの意識を逸らしPGを自由にすることができる。
 そして誠凛にはパスを極めた男がいる。
 伊月は黒子を見た。
 黒子はもう『影』じゃない。でも『影』だったときの遺産まで失ったわけじゃない。
 皮肉だよな
 思わず笑みがこぼれる
 『光』が『光』でなくなったら何も残らないのだろうに。
 審判がボールを投げ上げた。

 諏佐の手がボールを弾く。弾かれたボールを取った今吉は桜井にパスを送った。I・H予選決勝リーグのときと同じ流れ。それを敢えて踏襲する。あのときは黒子にボールを叩き落とされたが。
 阿保やと言われても青峰に勝負を託すんが桐皇のスタイルや。やからこそタイミングは計らないかん。まだ青峰にボールを回すんは早い。
 「スイマセン!」
 桜井がいつもの台詞と同時にシュートを決める。今度はボールはネットをくぐった。先取点は桐皇だ。
 なんや?
 誠凛の反応を見て今吉は怪訝な思いを抱いた。桐皇が先制した。いうなれば主導権を握った状態なのに焦った様子がまったくない。
 「伊月」
 今吉に見えない位置で誠凛のSGとPGが言葉を交わしていた。
 「先取点が向こうならなおいいさ。」
 俺に注意が向かないだろう?
 焦らず、ゆっくり。
 スローインしたボールを伊月から黒子を介して木吉へ回し、中に注意を向けさせてから日向に戻す。中に引きつけられていた桜井のマークが緩んだ一瞬に日向は危なげなくシュートを決めた。
 「これで同点だな。」
 先取点など何の意味もない。誠凛のリズムを崩すことはできない。PGは司令塔。そのPGが一定のリズムを保ち続ければチームが乱れることはない。伊月を中心に黒子と木吉がサポートについたゲームメイクを中心としたチーム。それが今の誠凛だった。

 テツ・・・
 青峰は考えていた。自分と黒子について。正確に言えば、自分たちと黒子について。
 中学時代、黒子はドリブルもシュートもできない、普通のバスケットプレイヤーとしてのスキルはほとんどない選手だったが、そんなことは青峰にとって問題ではなかった。パスがあるからではない。黒子が誰よりもバスケが好きだと知っていたからだ。ずっとバスケをしてきて、青峰は自分と同じ強さでバスケに向き合える人間に会ったことがない。それは寂しいことで、成長への興奮がなければ潰れていたかもしれない。
 黒子にパスという武器があると青峰は意識したことはない。青峰にとって黒子は誰よりも噛み合う存在で、自分の相棒だった。その事実のみが胸の中にあった。元より理論立てて物事を考える人間ではないのだ。青峰は本能で生きている。その青峰の本能が黒子テツヤを欲していたのだ。己の隣に立つものとして。
 今はどうなのだろうか。自分は黒子を突き放した。おまえのパスをどうとっていいか忘れたと言ったのは青峰だ。自分に黒子は必要なくなった。一人でも強くなったから。本当に?ならなぜこんな寂しさを感じているのか。青峰だけではない。キセキの誰も、才能が開花してからは人を遠ざけるようになった。その対象には黒子も含まれている。そして寂しいと悲鳴をあげる胸の痛みをごまかすように試合にぶつけ、随分とひどいこともした。
 こうして振り返ってみると、自分たちの行動がひどく矛盾したものだったと分かる。人を遠ざけたら寂しいのは当然なのに。寂しいと言いながら人を遠ざけた。突き放して必要ないと言えば人は去っていった。そしてもう近づいてこなかった。幼馴染の桃井ももう傍にはいない。彼女は青峰より、自分の恋を選んだ。
 何もなくなったと思ったとき、心の中で誰かが声をあげるのを感じたのだ。青峰くん、と。
 黒子の声だった。一番最初に、一番ひどいやり方で突き放した黒子の声。
 そんなはずはない。黒子はもう自分たちに関心を持ってはいない。あのWC予選の秀徳戦を見れば分かるではないか。黒子は『キセキの世代』より誠凛のチームメイトを選んだ。過去より現在を選んだ。なのに試合の後に会った緑間はすっきりした顔をしていた。黒子が自分たちの影でよかったとそう言った。
 あの試合は、黒子が誰よりも緑間真太郎を理解していたから成り立ったものだ。黒子にとって自分が過去のものでも、黒子の中には確かに自分がいる。自分の欠片も今の黒子を構成するものの一つだ。それでいいのだと。自分の存在が黒子の中にあるのなら、それが過去のものだとしてもいいのだと。むしろ、と緑間は言った。過去にできて初めて自分たちは黒子の中にいる己を確認できるのではないかと。どんな形であれ執着しているうちは分からなかった。離れたから分かったのだ。別に関係が絶たれたわけではない。ただ過去が終わったというだけだ。新しい関係ならこれから築いていけばいい。
 緑間はもう未来に向かえるだろう。でも自分は・・
 青峰は自覚していた。自分が影としての黒子を手放せないことを。

 試合が動き始めた。今吉から回されたパスをファンブルしそうになる。
 「っち!」
 思いきり動揺してるじゃねえかよ!
 青峰のマークについているのは火神大我。青峰は苛立った。
 「俺が待ってんのはおまえじゃねえ!」
 「こっちにそれに応える義務なんかねえよ。」
 たぶん誠凛は計算している。青峰が黒子に執着していること。だから黒子ではなく火神を青峰につけた。心理的な揺さぶりだ。黒子の姿を探そうとした隙に、火神の手が青峰からボールを奪う。
 「にゃろ!」
 敏捷性なら青峰が上。加えて今火神はドリブルしている状態なのだ。追いつくことはたやすいはず。しかしそんなことは青峰より火神の方がよく分かっていた。己が敏捷性において青峰に劣っていることぐらい。追いつかれる直前で火神がパスを出す。伊月に向かったパスは黒子により軌道を変えられ、木吉の元に。
 桐皇の選手の脳裏に、試合序盤の光景がよぎった。黒子から木吉へ渡ったボールが日向に戻されたアレ。今度も日向か?それとも木吉か?
 迷ってしまうのは仕方のないことだろう。しかしそれは意味のないことでもあった。後出しの権利。並外れたでかい手で自在にボールを操り突然プレイを変える。木吉を止めにくるならパスすればいい。止めにこないならシュートすればいい。
 木吉は味方の位置を確認した。火神には青峰がついている。日向には桜井がついている。若松の注意は若干自分から逸れている。でもここは・・
 ダンクに行く体勢から木吉はパスを出した。ボールを空中で受け取りアリウープを決めたのは黒子。木吉にパスしてそのまま走りこんでいたのだ。火神、日向、木吉。木吉にボールが回ったのを見て桐皇の注意は木吉と日向に向いた。青峰が火神についているのは作戦か。黒子を見ている選手がいなかった。木吉にパスした段階で一度『終わった選手』として脳裏から消えている。この後黒子を警戒するかもしれない。でも今の黒子のマークにつけるとしたら桐皇では青峰ぐらいだろう。そして青峰が黒子のマークにつけば、火神を止める選手がいなくなる。
 キーマンは伊月だ
 いつの間にか、伊月の存在が桐皇の選手の頭から消えていた。

 桃色の少女が客席に手すりにもたれるようにしてコートを見ていた。その横には黄色の少年。待ち合わせたわけではない。偶然に会ったのだ。そのまま並んで試合を見始めたのは偶然でないにしても。
 「テツヤっちはどっちを選ぶんスかね。火神っちもすごいっスけど・・でも青峰っちのこと・・・」
 桃井の目に燃えるような赤い髪の少年が映る。火神大我。『キセキの世代』と同じポテンシャルを持つ少年。しかし火神と『キセキの世代』は正反対と言っていいくらい立ち位置が違う。
 それは影(黒子)との関わり方。現在解消されているにせよ『キセキの世代』にとって黒子は『影』だった。彼らは『影』だった頃の黒子を知っている。『キセキの世代』と黒子の関係を語る上では『影』だった頃の黒子の存在というものは避けて通れない。
 火神は違う。火神は『影』だった黒子を知らない。火神が出会ったときすでに黒子は『光』であり『影』ではなかった。それはすなわち火神と黒子の関係は対等でありどちらが主導権を握るというものではないことを意味する。
 黒子と『キセキの世代』の関係は火神のそれとは違う。『キセキの世代』は『光』であり黒子は『影』。黒子は一人では点のとれないプレーヤー。コート上での支配権は『キセキの世代』にあった・・・ように見える。
 しかし桃井は彼らが決別する前から黒子と『キセキの世代』の関係性に微かな違和感を覚えていた。
 本当にテツくんは大ちゃんたちがいないとコートに立てないの?
 その違和感が大きくなってきたのは黄瀬がバスケ部に入ってからだ。
 ボクは『影』だ。点をとる『光』は黄瀬くんです。
 確かにあの試合直接点をとったのは黄瀬だ。でもあれは黄瀬の力だけでは勝てない試合だった。あるいは『キセキの世代』の他の誰かなら一人で勝てただろうか。
 きーちゃんすごくテツくんに懐いてる。ううん、これは懐いてるなんてレベルじゃない。
 コートの中ではきーちゃんが『光』であるはずなのに、コートの外では逆。テツくんがきーちゃんを引っ張ってる。
 これが彼らの本当の姿だとしたら?コートの外では赤司くんでさえテツくんを従わせることはできない。だから赤司くんはあんなこと言ってるの?自分は絶対だって。
 ひょっとして、キセキのみんなとテツくん、主導権を握ってるのはテツくんなんじゃ。
 『キセキの世代』がチームとして崩れていくと共に違和感は膨れ上がり不安が増していった。
 主導権を握っているのがテツくんなら・・キセキのみんながテツくんの手を放したら・・テツくんはいってしまう。
 いかないでと縋りたかった。手を放しちゃ駄目とみんなに言いたかった。でもキセキの彼らには、幼馴染の青峰にでさえ、桃井の声は届かなくなっていた。
 高校で成長した黒子に会い、その傍にいる火神を見て桃井は確信した。『キセキの世代』と黒子、本当の『光』はどちらだったのか。
 黒子は『影』なんかじゃない。誰よりも強い『光』だ。強くて人の目に見えなくなるくらい。『キセキの世代』と黒子の関係は、彼らが黒子の手を放したときに終わっていたのだ。関係を保ち続けたいなら黒子の手を放してはいけなかったのに。今黒子の隣には火神がいる。『キセキの世代』と同じギフトを持つ、黒子と対等であれる存在。黒子はもう火神を――誠凛を選んだ。テツくんはみんなにお別れを言おうとしてるんだ。
 テツくんとみんなの関係が戻ることはない。築けるとしたら新しい関係だけ。黄瀬のように。過去のテツくんに執着している人とテツくんの関係は終わってしまう。
 だから桃井は過去(キセキ)を捨てた。それは裏切りでもあるのに、黄瀬は祝福してくれた。青峰が黒子との過去を捨てられなかったとしたら待っている結末は――
 それを知っていても桃井は何もしない。桃井が選んだのは黒子の傍だから。
 「違うの」
 桃井は言った。決意を込めた眼差しで桃井はコートを見ていた。
 「テツくんは、青峰くんとさよならしにきたの。中学時代ちゃんとさよならできなかったから。さよならするために、青峰くんに笑ってほしいの。」
 「それって・・」
 桃井の言葉の続きを悟ったのだろう。黄瀬の瞳が寂しげに揺らぐ。だとしたら、これはなんと重く、そして悲しい試合なのだろう。あの二人は誰よりも輝いていた光だったのに。
 「青峰くんの笑顔が最後の未練だから、テツくんはそれが見たいの。だから、青峰くんが笑顔を取り戻したら、終わるんだよ。」
 『影』としての己の終わりは、青峰大輝に引いてほしい。それが黒子の青峰への最後の愛情だった。

 日向にダブルチームがついてるとこなんて初めて見たな
 伊月は冷静な頭で思った。予定通り、誠凛は日向の3Pを中心に攻めていた。日向のマークは桜井だが、黒子が、木吉が、伊月が、素早いパス回しで翻弄し誰で決めにくるのかを悟らせない。
日向を警戒すればボールは中に回る。もちろん中にもディフェンスはいるのだが、誠凛は中に木吉、黒子、火神の3人を入れている。その全員をマークしきるのは不可能だ。いや、マークだけならできるのかもしれないが、才能の開花した黒子と火神は青峰にしか止められない。そして青峰大輝は一人だけだ。つまり黒子と火神のどちらか一人は実質的にフリーになってしまう。そう思ってディフェンスを厚くすれば、ボールは外へ回るのだ。中が警戒されるから外が生きてくる。そう、攻めの中心は日向というのは日向の3Pで点を獲ることを意味しているわけではない。ただ日向はボールが渡ればいつでも3Pを決められる状態でいればいい。そうすれば桐皇は外を無視することができない。外を無視できないから中に集中することができない。
外と中の連携。作戦としては単純というより作戦というほどのものでもないバスケの基本だ。どちらかを抑えなければ誠凛の攻めは止められないと、外を止めにきたようだ。少なくとも中には青峰がいる。ある程度点を獲られることは覚悟の上なのだろう。
分かってないな
伊月は内心で溜息を零した。
青峰を火神か黒子につけるってことは、逆に言えば火神か黒子が常に青峰をマークしてるってことなのに
自分が桐皇のPGなら、青峰を自由にさせるだろう。彼は野生の獣だ。自由に動くときにこそ最大の力を発揮する。その彼を解放せずわざわざ鎖に繋ぎとめる。自分たち(誠凛)が青峰を止めるのが厄介なら桐皇に自ら封じてもらおう。
チームプレイなんか覚えなければよかったんだよ。おまえは。
伊月は黒子にパスを出した。


桐皇のディフェンスに揺らぎが走った。ずっと中にいた黒子が外に出て伊月からのパスを受け取り3Pを決めたからだ。誠凛において黒子の3Pの成功率は日向に次いで高い。日向のマークがきつくなれば黒子が動く。それも最初からの作戦だ。3Pの成功率が高いといっても黒子は日向とは違う。隙があれば自分で中に攻め込む力を持っている。青峰をつけるか?それなら火神がフリーになる。日向のマークを戻すか?それでは元に戻るだけだ。
スコアラー全員を完全にガードすることができない。まあ当然なのだが、だからこそスコアラーに注意が向きスコアラーにボールを回しているPGが意識から外れてしまう。それは誠凛が元々パスワークを中心とするチームであり、伊月と黒子、木吉の3人でボールを回しているからだ。ボールを運ぶ人間は一人だけではないので司令塔に目が向かない。桐皇にとって一番いいのは伊月をマークすることだ。
まあそのときは黒子か木吉がPGの役割を引き継ぐことになってるんだけどな。
基本に忠実というのが一番崩しにくいのだと、穏やかな笑顔の持ち主は言っていた。

青峰の中でじりじりと炎が燃えていた。中を固めるように言われたが、こんなふうに他人の指示通りに動くのは元々性に合わない。もちろん青峰が攻め込む場面もあるし、それは誠凛も止めにきている。しかし止めにくるのは火神であり黒子ではない。そのことにどうしようもない怒りを感じる。
誠凛がこんな自分の心理さえ利用しているのだとは分かっている。それでも抑えきれないことはあるのだ。
「っち!」
青峰はマークしていた火神を捨てて黒子の元に走った。火神は追ってはこない。今は誠凛が攻めている状態であり、青峰が火神のマークから外れる=火神がフリーになるだからだ。火神には青峰を追う理由がない。それは自らマークされに行くようなものだ。
「青峰!」
自分を呼ぶ声も気にならない。野生を剥き出しにして黒子と向かい合う。黒子は凪いだ瞳で青峰を見つめる。
「青峰くん」
仕方ないですね。そんな声だ。
「君馬鹿なんですか?」
黒子をスルーしてパスをもらった火神がシュートを決めた。ゴールの方を見た青峰の頭に呆れた声が降ってくる。
「一人で二人は防げません。というより分かりました?パスの重要性。」
おまえたちが捨てたんだ。声が聞こえた気がした。
「この試合誠凛が優位に進めているのはスコアラーが4人いるからではなくパスを回せる選手が3人いるからです。」
伊月、木吉、黒子。3人ともパスセンスは充分に持っている。勝負をかけるのに苦手分野でいく人間はいないだろう。パスワークと走力が誠凛の武器ならそれをもっと磨けばいい。パスがあるからこそスコアラーは点を獲れるのだから。
「自分でボールを取って、ドリブルして、シュートすれば確かに一人で点は獲れます。でも」
黒子は言った。
「パスを絡めた方が効率がいいんです。」
この試合でそれを証明してみせますよ。
 第2Q終了を告げる笛が鳴った。

 あかんなあ
 今吉は自分たちが誠凛の思惑に乗せられているのを悟っていた。まだハーフタイムだというのに皆いつも以上に汗をかいている。雰囲気も悪い。点差はさほど開いてないとはいえ、流れを完全に持っていかれているのだから当然だ。その点差でさえ、わざとではないかという気がしてくる。こちらが追える点差のままにして追わせて体力を消耗させようという。
 そんなわけないか
 考えすぎやな。今吉はタオルを頭から被り、首を振った。今吉はチームメイトを見やった。若松も桜井もペースを乱している。ディフェンスの不調がオフェンスにも出て、桜井の3Pも第2Qでは1本も決まらなかった。若松も木吉に負けているという苛立ちを隠そうとしていない。自分がもっと木吉を抑えられていたら状況は違っただろうという思いがあるのだ。
 最悪なんは・・
 今吉は自嘲した。
 ワシまでそう思っとるいうこっちゃな
 桜井がもっと日向を止めてくれていたら。若松が木吉を抑えてくれたら。結果は違ったのにと。バスケは団体競技なのだ。個人を責めるのは間違っていると分かっているのだがそこは桐皇のカラーが悪い方向に働いた。桐皇は個人主義。仲間のフォローも必要最低限だ。うまく回っていれば力になるそれが今は悪い方に作用している。
 青峰・・
 今吉は不完全燃焼の感を露にしているエースに目をやった。黒子と火神を抑えろと言われた青峰だが明らかに動きが悪い。今までの試合はエースにすべて任せればよかった。しかし誠凛には青峰と同スペックの選手が二人いる。だからどうしてもいつもの試合と同じようようには戦えないのだ。
 「青峰さん」
 それまで黙っていた原澤が声をかける。青峰が僅かに顔をあげた。
 「自由に動きなさい。」
 「監督?」
 選手からあがる戸惑いの声を言い含めるように原澤は言った。
 「あちらもそれを望んでるんです。」
 ならなおさらそれは駄目なのではないか?そんな疑問を口に出せる者はいなかった。今吉でさえ。原澤の態度がいつもと違う。桐皇の監督であるはずの原澤の目は、相手チームの選手一人だけを見ていた。
 あなたがそれを望んでいるのなら。カズヤさん。

 黒子がボールを持ち青峰と向かい合う。今の黒子なら当たり前のそれに違和感を覚えるのは、かつての黒子の影を濃く負ってしまっているからだろう。影の薄さを武器にしていた頃の黒子はコート上でもっとも存在感のある物体であるボールを持つことはなかったから。この黒子は違うのだと見せつけられ胸の奥がちりちりする。俺の影だと叫びたい心を目の前の現実が否定する。もうおまえの影じゃない。誰の影でもないのだと。
 「いつかは向き合わなければいけないときがくるんです。」
 黒子が言う。
 「テツ」
 いつか向き合うとき。向き合ったその後は?
 「逃げ続けるわけにはいかないでしょう?」
 自分のことを言われたような衝撃が青峰を襲った。逃げ続けられると思っていたのか?おまえの影から。おまえ自身の影から。
 いつの間にかコートから人はいなくなり、青峰一人がそこに立っていた。観衆もない中青峰に向き合って立つのは青峰自身だ。
 「俺に勝てるのは俺だけだ。」
 自信満々にそう言う『青峰』。違う。そう言う前に像がぶれ、また会場に戻る。青峰の前にいるのは黒子だ。
 「青峰くん」
 心の中で懐かしい声がした。
 青峰くん
 大きく右に踏み出した黒子がそのまま青峰を抜こうとする。すぐディフェンスに入ろうとした青峰は目を見開いた。黒子の姿がさっき見た自身の影と重なったからだ。
 なんだ今のは
 かろうじてディフェンスに間に合った青峰は場所を変え黒子と向き合う。そこにいるのは黒子。黒子テツヤだ。
 慎重にボールをついていた黒子が身体を後ろに傾けた。右手をあげ降りぬいた姿勢のままパスを出そうとしている。楽に届く。止められると思っていたボールはしかし指先にかするのみでそれでもコースをずらし床にぶつかった。分かっていたように黒子が動き、青峰の目がボールに釣られた一瞬のうちに後ろに回り込み再びボールをとる。青峰に弾かせることによってボールの軌道を変え上を抜かせた形だ。ゴール下へと駆ける黒子を追いかけようとして青峰は目を見開いた。ドリブルする後ろ姿に自身の影が映る。それは一瞬ですぐさま影は黒子自身に戻り、足が止まった青峰を置いて黒子はシュートを決めた。
 こちらを振り向いた後ろ姿が再び自身の影と重なる。言葉が響いた。
 自分のしたことの責任なんて自分にしかとれねえよ
 そこはあの自分しかいない空間だった。ボールを持って立つ『青峰』は帝光のユニフォームを着ている。
 「俺のしたこと?」
 『青峰』の顔が笑みを刻む。
 「いらないって言ったんならそれまでだ。」
 もう関係なんて終わってる。いつまで引きずってるつもりだよ。
 「もう元には戻らねえよ。」
 「ふざけんな!」
 かっとなって顔をあげるとそこはまた熱気溢れる試合中のコート。
 ああ
 青峰は悟った。
 これはあのときコートに置いてきた俺だ。
 合わせなかった拳。一人にした影。向き合おうとしなかった自分。
  
 自分のしたことの責任なんて自分にしかとれねえよ

 それが今になってのしかかる。
 青峰が戦っているのは、かつての自分だった。

 俺に勝てるのは俺だけだ
 それは青峰が言ったこと。青峰は前を見た。ぎらぎらした目でこちらを見る獰猛な獣。獣の名は青峰大輝。自分自身だ。
 俺が相手ならどうなんだ?
 そう問いかけてくるようだ。
 テツには敵わねえな
 乾いた笑いが漏れる。
 逃げようとしても突きつけてくる。置いてきたものを。また顔を背けるのなら青峰はずっとコートで一人のままだ。
 家に送られてきた、引き裂かれた写真が脳裏をよぎった。
 笑い合っていた。隣にいるのが幸せだったのに。
 楽しいだけでバスケができる時間はいつか終わる。大人になんかなりたくなかった。影のいるこの場所にずっといたい。
 過ぎた望みだったのか。いいや。時の流れが停滞を許さなかったのだろう。成長についていけなかった。開花した才能と未熟なままの心のねじれが悲鳴をあげ、どうしていいか分からなくなった。
 青峰くん
 柔らかい声に甘えた。分かってくれると思った。本気で言ったわけじゃない。ただ俺は苦しいんだと。でも影は去っていった。
 「甘えだろ?そんなのおまえの」
 『青峰』が言う。誰も敵わないスピードが脇を駆け抜けた。
 「行かせるか!」
 前に回り込む。青峰も本気だった。
 「おまえの本気は」
 『青峰』が笑う。
 「『影』を失ったときに出るんだな。」
 頭に血が昇る。
 「ちょっと遅過ぎんじゃねえ?」
 くいと示された顎の先にいるのは火神。いつでも黒子をフォローできる位置に立っている。
 「あいつが新しい『光』だっていうのか。」
 くぐもった呻きに返ったのは嘲笑。
 「馬鹿か。『影』も『光』もねえよ。テツは『影』なんかじゃねえ。」
 顔を近づけて囁かれる。
 「ずっと隣にいて分からなかったのか。なあ、おまえはなぜ輝けた?」
 俺はなぜ輝けたか?俺は『光』だったから・・・
 「俺はおまえだ。つまり」
 『青峰』が動いた。フェイダウェイからのシュートモーションに間合いをつめると、『青峰』はボールを膝の近くまで下げ、青峰の身体のすぐ横にステップを踏み、抜こうとする。最初のシュートモーションはフェイクだったのだろう。
 「くっ」
 無理な体勢から止めようとして身体が接触する。審判の笛が鳴りファウルが告げられた。
 「ふう」
 ユニフォームの首元をぱたぱたとさせていた『青峰』が青峰の視線に気づきにやっと笑った。
 「おまえの動きも思考も手に取るように分かるよ。」
 俺はおまえなんだからな。そう。俺はおまえ。黒子は青峰の呼吸をよく知っている。フォームのない青峰のプレイに黒子だけが合わせられる。緑間の言葉を思い出した。あの試合は黒子が緑間真太郎を理解しているから成り立ったものだと。今も同じだ。黒子は誰より青峰大輝を理解している。だからこそ青峰と対峙できるのだ。青峰の『影』としてではなく――
 「大丈夫かよ」
 大きな手が『青峰』の肩に乗せられた。いや、『青峰』ではない。『青峰』の姿が溶けていく。
「テツ」
青峰が溶けて現れた影――黒子テツヤの顔は隣の男に向けられていた。今の黒子の隣に立てる人間。
 「ん?」
 睨むような青峰の視線に不思議そうな顔をしているのは火神大我だった。
 
 青峰の瞳が火神をとらえた。黒子の肩に手を置いて何か話しているようだ。眉を顰める。
 中学時代、『キセキの世代』の誰かと黒子が一緒にいる光景を見ると激しい嫉妬心が青峰を襲った。黒子の隣は自分のものだと主張したくなった。しかし今、黒子の隣にいる火神を見ても嫉妬心は沸きあがってこない。
 執着が薄れたのではない。関係性の問題だろう。『キセキの世代』は、程度の違いはあれ自分は黒子の『光』だと『影』に対しての権利を主張していた。だから自分をこそ黒子の『真の光』だと自負する青峰は嫉妬した。
 火神は黒子に対する権利など主張していない。火神にとって黒子は己のチームメイトだ。そこに仲のいい友人、馬が合う、そんな要素が加わることはあるが黒子は火神の持ち物ではない。火神は黒子の『光』としての権利を主張しない。だから嫉妬心は沸きあがってこない。生まれるのは他の感情だ。
 どうしておまえはテツを『影』として見ない。どうして自分のものだと言わない。すぐ隣にいるのに。今おまえだけが黒子は自分の相棒だと言う正当な権利を有しているのに。
 青峰が欲しがっているもの。黒子の隣に立つ権利。今それを持っている男はそれを享受するにせよ誇ることも喜ぶこともない。誰かがその場所を譲れと言えば火神はあっさりと譲るだろう。黒子は火神のものではないから。どこにいようがチームメイトであることに変わりはないから。
 黒子の『光』でないからこそ、火神は黒子の傍にいられる。これは怒りだ。火神大我。なぜテツを欲しがってもいないおまえがテツに選ばれたんだ。
 「負けられねえな」
 青峰の瞳の奥で炎が揺らめいた。

 燃えるような赤い髪の持ち主が青峰と対峙する。
 望み通りだと思う一方で微かな苛立ちも感じる。今目の前にいるのは黒子ではない。黒子は青峰への関心を完全に失ったわけじゃない。それは分かる。でなければさっき勝負にはこないだろう。でも違う。かつて青峰に向けられていたそれとは。
 緑間が言ってたのはこれかよ
 変わらない自分と、変わった相棒。もう隣に立つのは己ではない。それでも
 「最強は俺だ!」
 『キセキの世代』随一を誇る敏捷性で火神を抜いた。抜いたと思った。しかし火神はまだ自分の前にいる。
 コイツ・・・
 驚いた。火神は別にマジックを使ったわけではない。それなら自分の元相棒の十八番だろう。火神はただ後ろに下がったのだ。それは身体のどこにも力の入っていない自然な動き――野生
 テツ
火神にはここまでの技術はなかったはずだ。短期間での成長の影にあるのは黒子。かつての己の『影』
 っざけんな!
 やはり我慢などできない。黒子が自分以外の隣に立つことなんて。それが自分勝手な想いだと分かっていても。
 「あいつは俺の影だ。」
 挑発的にそう言い放つ青峰に火神はため息を吐いた。
 「そう思いたきゃそう思っとけ。」
 影としての黒子に執着がない火神には心底どうでもいい話だ。火神にとって黒子はチームメイトでありよきライバルだ。青峰はその黒子の元チームメイトであり、火神も青峰にそれ以上の感情は持っていない。それよりも青峰と本気で勝負できないほうが嫌だった。青峰個人にこだわりがなくとも強い相手との対戦は望んでいるのだから。緑間との試合で中途半端に燻った炎を火神は誰かにぶつけたかった。
 火神の言葉に青峰はぎりっと唇を噛んだ。黒子のことなどどうでもいい。青峰にはそう言っているように感じられた。
 「てめえはテツがどうでもいいのかよ!」
 火神は軽く目を見開く。黒子が青峰に対して元チームメイト以上の感情を持っていなかったのでなんとなく相手もそうだろうと思っていた。違うのか。青峰は黒子に何か思うところがあるのか?だがどちらにせよそれを勝負の場に持ち込まないでほしい。
 「口喧嘩しにここに来たわけじゃねえだろ。」
 火神にそのつもりはないが、火神は青峰の苛立ちを煽っていた。トップスピードで強引に火神を抜こうとした青峰のボールへ火神は反射的に手を伸ばした。咄嗟にパスに切り替えた青峰に一番驚いたのはチームメイトではなく青峰自身だ。青峰の選択肢にパスはない。ないはずなのに。
 青峰は屈辱に身体を震わせる。今のは逃げだ。一瞬――いや半瞬でも動きが遅ければ殺られていた。判断は間違ってないがパスを出したのは間に合わないと思ったから。
 ほんといらいらさせるぜおまえは
 こいつが黒子に選ばれたのだと思うと苛立ちが募る。火神と青峰。これは黒子の『光』の座をかけた勝負ではない。火神は黒子の『光』ではない。だからこそ――いつかは消える『光』ではないからこそ終わりなどないのだと言われているようで怒りが燃える。
 永遠に輝く『光』はない。炎であれ、人工のものであれ、恒星にさえ終焉は訪れる。太陽も永遠に輝き続けるわけではない。青峰大輝は太陽だったのかもしれない。月は己の輝きで照らされるのだと思い込んでいた太陽。しかし月は――決して太陽のものではない。
 惑星の周りを巡る衛星としては他と比べて大きすぎる月。月はきっと自らの意志でそこにいるのだろう。誰にも月を意のままに動かすことなどできない。月がどこにあるかは月が決める。それでも――だからこそ太陽は月に固執する。しかし火神大我という新たに現れた『光』は月を従えようとはしない。月が選んだのはその『光』の傍だった。
 身体を沈め、青峰は火神の右から抜きにかかる。反応して止めにきた火神の手を嘲笑うようにボールが離れた。青峰の手から後ろにすり抜けたのだ。このボールを取ろうと思ったら青峰はただ後ろに下がればいいだろう。しかしそう単純にはいかないのがバスケだ。火神はターンして青峰の後ろに回り込みボールを掴んだ。そのまま攻め上がろうとするのを青峰がこちらもターンして火神の正面に回り込み防ぐ。
 『影』という枷のない火神のパフォーマンスは抑えられることなく引き出されている状態だった。
 「てめえはテツの『光』じゃねえのかよ!」
 「俺と黒子の関係はそんなもんじゃねえよ!」
 二人の男の咆哮がコートに響き渡る。
 ダン!
 高校バスケ界最高の男が強く床を踏み切った。
 レーンアップか?いや違う。それにしては前への飛距離が足りてない。
青峰の中の冷静な部分が考える。
 高い。今までとは段違いに・・
 動くことはできなかった。それくらい、その完成されたシュートは美しかった。高角度からの投げ込み式ダンク。
 メテオジャム
 青峰の頭上を越したそのシュートが決まった瞬間。一つの決着がついた。
 テツ
 シュートを決めた火神は黒子と拳を合わせている。
 テツ・・
 青峰大輝の心が叫んだ。空っぽだと。それを認識しても。受け入れることは青峰にはできない。そんな青峰を、二つの瞳がじっと見ていた。
 「青峰くん」
 終わらせましょう。
 もう一つの『光』が動き出した。

 今吉の出したパスが伊月にスティールされ黒子に渡る。誠凛の選手が動き出した。
 アイソレーション!?
 ベンチにいた原澤は目を見開いた。
 アイソレーションはオフェンスの戦法の一つで、特定のプレーヤーがスペースを使いやすいように残りの選手が片側に寄ることだ。使う時の理由はいくつかあるが、この場合は――
 勝負するんですか、カズヤさん
 「両チームエース同士の1on1だ!」
 観客の沸き立つ声が聞こえる。
 「これはそんないいものじゃないですよ。」
 青峰を自由にした。黒子がそれを望んでいたから。でも黒子が青峰と勝負するのは嫌だとも思っていた。彼の特別は自分たち以外にいらないのだから。
 原澤はコートを見た。
 対峙する二つの『光』。
 「それがあなたの選択なら受け入れましょう。」
 最後の我儘です。

 周囲の音が耳に入ってこない。景色も見えない。自分はこの状態を知っている。ゾーン。自らのパフォーマンスを100%引き出せる状態。
 テツ相手に・・テツだからか
 本気で戦いたい相手
 軽く――なんでもないように黒子の左を抜く。しかし抜いたと思った瞬間ボールは黒子の手に移っていた。スティールは黒子の十八番だ。
 忘れてたな
 黒子は『影』だったときの武器をまだそのまま持っている。しかしもう『影』ではない。ボールを持った黒子が走りだす。すぐに追いつき正面に回る。黒子の動きが止まった。
 どうするテツ
 コート上でボールを持った選手はずっと止まったままでいることはできない。5秒以内にパス、ドリブル、シュート、いずれかの動作に入らなくてはならない。
 シュートには遠すぎる。抜いてくるか。
 そう思っていた青峰の前で黒子がふわりとボールを浮かせた。その黒子の体勢を見て身体と心に震えが走る。ボールを押し出すような構え。
 イグナイト
 後ろを振り向く余裕はない。それでも青峰はこれを火神へのパスだと思った。血が沸騰する。強くなっても、黒子は現在のプレイにパスやスティール、視線誘導を取り入れている。それでもイグナイトパスだけはしたことがなかった。無意識のうちに――青峰はそれを自分への特別の証だと思っていた。『光』と『影』でなくなっても、自分は黒子の特別なのだと。
 それは原澤と黒子カズヤの関係に似ていた。原澤は黒子カズヤの特別でありたいと望んでいた。同じチームでコートに立った者として、少なからず特別であろうという思いもあった。しかし実際のところ、原澤は黒子カズヤの特別ではない。黒子カズヤはすべてを受け入れる。すべてを受け入れるが故に、彼に特別というものは存在しない。究極の善人は特別をつくらない。なぜなら彼の愛は周囲のすべてに向けられているから。
 原澤が意識することを拒んでいるそれ。それが今コートの中にあった。黒子テツヤの特別になりたい。しかし黒子テツヤに特別はない。むしろ特別をつくらない人間だから『キセキの世代』を受け入れられたのだ。
 イグナイトは渡さない。咄嗟にボールの進行方向を手で塞いだ。黒子はくすりと笑うと、浮かしたボールを床にたたきつける。
 意識が他に向きすぎた青峰の横をそのまま通り過ぎようとした黒子の前に、恐ろしいほどの反応速度で青峰が回り込む。
 「いかせるかよ!」
 イグナイトへの執着はボールへの執着でもあるのだ。イグナイトを見せられたことで青峰の勝負への情熱は最高レベルにまで高まっていた。今逃がせば二度ともどってこないかもしれない『光』。勝負したい。こいつと勝負したい。他でもないこいつと。俺が。だってこいつは・・
 わあっという歓声。一瞬の残像が頭をかすめる。
 「ボクが隣にいなくても」
 黒子の瞳が真っ直ぐに青峰を射抜いた。この瞳を最後に見たのはいつだ?
 「ボクがいなくなるわけじゃありません。」
 いつからだ?いつから俺は
 「ねえ青峰くん」
 青峰の唇が笑みを刻む。
 「バスケって楽しいでしょう?」
 噴き出してきた。かつては確かに知っていた楽しさ。笑い合った仲間。なんで俺はテツと勝負したかった?それは俺にとってテツはバスケそのものだから。
 『バスケって楽しいでしょう?』
 そうだ。バスケは・・
 ずっと暗闇にいるような気がしていた。何もかも真っ黒に塗りつぶされて、毎日がつまらなくて、バスケの楽しさなんて忘れてた。
 押しつけられた勝つためのバスケ。うまくなるごとに薄れていった楽しさ。でも
 苦しいことばかりじゃなかっただろう?
 視界が一気に開けた。二人でかわしたパス。部活帰りに寄ったコンビニのアイス。皆で花火を見た夏祭り。ノートをコピーするためにゲーセン行って・・・
 俺は楽しかったんだ。帝光中で過ごした日々が。
 忘れていた。才能が開花して、相手がやる気を失って、楽しいバスケが崩れていった。でも楽しかったことがなくなったわけじゃない。あのときテツが笑ってたのは――
 俺が笑ってたからだ
 「テツ」
 それは幸せの名前。笑いが零れる。おまえが思い出させてくれた。かつてあった輝き。それは曇ったわけじゃない。見えなくなってたんだ。バスケを楽しんでいた自分が。
 「やっと笑ってくれましたね。」
 久しぶりに聞く黒子の柔らかい声に青峰はそちらを向く。笑顔の黒子がそこにいた。
 ざわりと胸が騒ぐ。黒子は確かに笑っているのに――心からの笑みを浮かべているのに――そのことがとても怖い。
 見てはいけない。青峰は思った。己は何か大切なものを失おうとしている。手の平から零れ落ちようとしている。
 「青峰くんの笑った顔が見たかったんです。」
 黒子は笑っている。本心から嬉しいと感じているのだろう。それは間違いないのに。
 「テツ?」
 背筋を不安が駆け上る。あんな別れ方をしても、自分と黒子が完全に決別するなんてないと思っていた。甘えていた。黒子テツヤは――青峰大輝の『光』だった。幸せの象徴だった。己の半身だった。離れることなんてないと思っていた。求めていたものはずっと傍にあったのだ。青峰の幸せの小鳥は。ずっと傍に。なのに・・・
 『もうお前のパスをどうやってとればいいのかも忘れちまった。』
 拒絶したのは自分。追い詰められていたというのは他者を傷つけていい理由にはならない。
 俺が捨てた・・
 合わせなかった拳。背中を向けた自分。
 俺に勝てるのは俺だけだ
 『光』を捨てた。黒子は青峰の『光』で、比翼の鳥だったのに。
そんなつもりはなかった
こぼれそうになった言い訳を飲み込む。無意識に青峰の手が黒子へと伸びる。あのとき無視した拳を合わせようとするかのように。
 「もう充分です」
 「やめろ」
 「ありがとう」
 ありがとう、青峰くん。
 笑っている。優しい笑みを浮かべている。でもそれは・・
 もう捨ててしまったものだ。光を。希望を。未来を。もう青峰は自分で道を探っていくしかない。いつも青峰を照らしてくれた『光』はもういない。
 『ナイスパス』
 『ナイスシュートです』
 望んでいたものはそこにあったのに。敵わなくても、最後まで向かってきてくれればと願った。自分を正面からちゃんと見てほしかった。あのときの自分は迷子だったのだろう。そして探しにきてくれた手を振り払った。そこにいたのに。自分に真摯に向き合ってくれる相手は。
 青峰くんよりすごい相手なんてすぐ現れますよ
 青峰と同じ強さでバスケに向き合っている人間は隣にいた。気づかなかった?見えてなかったのだ。隣にいるのが当たり前になりすぎて。その『影』を忘れていた。
 「テツ、俺は」
 何が言える。自分が捨てた人間に今更何が言える。
 「これで心置きなく戦えます。」
 心臓が凍りついた。なんで。なんでそんなこと言うんだよ。なんでそんな幸せそうなんだよ。俺と離れるのが。そんなに幸せなのか?俺はまだ・・
 『光』が捨てても『影』は捨てられないから。
 黒子が青峰の前から消える。青峰は目を見開いた。自分はこれを知っている。でも黒子がこの扉を開くことなんてないと思っていた。違う。黒子が自分を置いていくことなんてないと。自分の前から本当に消えることなんてないと思っていた。バスケをしていれば会える。あいつはバスケを捨てられない。きっと俺のことも捨てられない。思い切るなんてできるはずない。
 青峰は唐突に理解した。あれほど絶望しても自分がバスケを続けていた理由。黒子に会いたかったからだ。味方としてではなくても、黒子がパスを出す姿を見たかった。でも青峰の見た黒子は、もう『影』ではなくなっていた。
 結局俺はまだ――
 テツを自分の『影』だと思っていた。

 黒子が誰にも視認できないスピードでゴール前に攻め上がる。影が消えたと思ったら、ボールがネットをくぐる音がした。黒子がシュートを決めたのだ。緩急を自在に操る青峰の敏捷性とはまた違う『スピード』。黒子の開花した才能。神様から与えられたギフト。
 それは青峰が最初に辿りついた扉。そして青峰はもうそれ以上先へは進めぬ扉。
 「ゾーン」
 『影』が『光』を捨てた瞬間だった。

 「テツヤっちにとって、俺たちって重荷だったんスかね。」
 黄瀬はぽつりとつぶやいた。桃井の応えはない。
 「I・Hで紫っちと当たったとき、テツヤっちの笑顔の話をしたんス。」
 コートを見る黄瀬の瞳に映るのは、黒子の笑顔。青峰に向けた黒子の満面の笑み。
 「テツヤっちは笑ったことないって紫っちは言うんス。紫っちって俺らの中じゃテツヤっちとは距離があった方じゃないスか。少なくともバスケでは。俺の方が仲いいって思ってた。でも紫っちの方がテツヤっちのことがよく見えてた。」
 黄瀬の表情が陰る。
 「テツヤっちの笑顔が俺たちと別れるときにしか見られないのなら、それでも俺はテツヤっちの笑顔を見たいって思えるんスかね。テツヤっちの幸福って俺たちから離れたとこにしかないんスかね。」
 自分に問うているような言葉だった。
 「きーちゃん」
 桃井が言った。
 「みんなのこと重荷にしか感じてなかったら、きっとテツ君は今笑ってないよ。テツ君はみんなが好きだから笑ってるの。」
 黄瀬を見た桃井の瞳には光るものがあった。拭おうと手を伸ばしかけてやめる。
 「重荷としか思ってなかったってことは絶対ない。でも重かったとは思う。みんなの存在。一人で五人分の影を引き受けてテツ君は潰れそうになってた。潰れなかったのはテツ君の強さ。」
 私だって重かったの。でも潰れないだけの強さはなかった。だから『キセキのマネージャー』をやめたの。
 「こんな風に外から見て、久しぶりにバスケが楽しいって思えた。勘違いしないでね。私きーちゃんのこと好きだよ?みんなのことも好き。でももう私には」
 支えきれない
 桃井が笑う。
 「案外普通なんだね。」
 自分の言ったことは黄瀬にとってショックだっただろう。でも黄瀬の面は落ち着いている。
 「そうなんじゃないかなって思ってたっスから。」
 黄瀬は頬を掻いた。
 「俺は覚悟の上で、もう一度テツヤっちの友達になりたいって思ったんス。俺はテツヤっちの傍にいたいんス。テツヤっちの傍で笑いたいんス。」
 『影』として縛られていても、自分たちの幸せで黒子は笑う。黄瀬が見たいのはそんな笑顔じゃない。
 「テツヤっちにちゃんと自分の幸せで笑ってほしいっス。」
 それが友達でしょ?そう言って笑う黄瀬の顔は、もう少年のものではなかった。何も知らないで笑っている少年のものでは。
 それは大人のもの。痛みも苦さも味わった、大人の顔だった。
 「青峰っちにも伝わるといいなあ。」
 黒子は青峰から離れるのが嬉しくて笑ってるんじゃない。青峰が笑顔を取り戻したから笑っているのだ。青峰大輝は黒子テツヤに、笑顔を望まれるほどには愛されている。愛されているのだ。
 捨てたことを恨んでなんかいない。ただそれが青峰の望みだと思われただけだ。だから青峰の笑顔が見たいというのは黒子の我儘でもある。黒子はそう捉えている。
 「言葉が少なすぎたっス」
 これはきっと俺たち全員の罪なのだろう。言わなくても分かってもらえると思ってたなんて。もしあのときなんて――今思っても意味はない。
 「試合見ましょ?桃っち」
 これは二人の最後の試合なのだから。『光』と『影』としての。そして自分たち『キセキの世代』の――幸せな時間の象徴だった青峰と黒子の最後の試合。これが終われば自分たちの関係も終わる。『光』が『影』から離れるから。
 「でも」
 夢は見ていたかった。黄瀬の頬を涙が伝った。

*編集者注 これはアリス・キャロルさんによる「黒子のバスケ」の二次創作です。
スポンサーサイト
Secre

たんぽぽ教育研究所のサイト

こちらをクリック!
たんぽぽ教育研究所

最新記事

カテゴリ

リンク

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。